誰より大切な君が生まれた日

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「別に問題は起きてないよ」 「では、他にどんな悩みが?」 支社長室のデスクで会議の資料に目を通していた僕は、目の前に背筋を伸ばして立つ葛城に視線を移した。 「葛城には、人の心を読み取る機能が装備されているのか?」 「ただ副社長がわかりやすいだけです。気付かれたくないのなら、気付かれないようにして下さい」 僕はあまり自分の悩みを他人に相談するようなことはしない。 結局は自分が決断するしかないとわかっているからだ。 でも今回ばかりは、他人に意見を求めたい気持ちになった。 「……僕が来年の四月から東京に戻ることは知ってるだろ?」 「えぇ。私も社長から、来年の四月に東京へ戻るよう言われております」 葛城は僕の専属の秘書だ。 僕が異動になれば、当然のように葛城も異動になる。 僕は東京に戻っても、今までと同じように仕事を続けられる。 葛城がいて、社長である父がいて、慣れ親しんだ本社には多くの部下がいる。 でも望愛にとっては違う。 全ての環境が変わってしまうのだ。 「……僕について来てほしいと言うのは、望愛にはあまりにも酷なことなんじゃないかと思って」
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