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乾いた電子音が、夕陽の差し込む病室に響く。
俺はベッドの傍に立ち、たくさんの管に繋がれたその人を見つめていた。
「───森下」
名前を呼んでみるけれど、森下は目を覚まさない。
恐らくこの先も、目を覚ますことはないだろう。
一週間前。
6時58分に芦名田高校前に着くはずのバスは、停留所を前にして居眠り運転のトラックに横から衝突され、死傷者を何名も出す大事故を起こした。
───そのバスには森下が乗っていた。
森下は意識不明の重体となり、今もなお眠り続けている。
俺は変わり果てた森下の姿を初めて見たとき、その凄惨さに言葉を失った。
つい先日まで一緒に過ごしていたはずの人と、もう挨拶を交わすことすら出来なくなる日が来るなんて、俺は思ってもみなかった。
『真山、わたし本当は、』
森下は最後、俺に何を伝えようとしてくれていたんだろう。
嫌われ者の俺に優しくしてくれたのは、森下だけだった。
デタラメばかりの噂で塗り固められた俺に怯えることもなく、ただの同級生として接してくれた。
太陽のような森下の笑顔が、目に焼き付いて離れない。
俺のために泣いてくれた森下の声が、ずっと頭の中を巡っている。
失いたくなかった。
もう一度、真山、と呼んでほしかった。
終わらない悪夢を見ているみたいだ。
永遠に続く、森下のいない世界。
それをどうすることも出来ない自分へのやるせなさと、ずっと好きだった人を失ってしまう哀しみに、涙が頬を伝って床に落ちた。
あの夢のような時間は、鮮やかに色付いたまま今も教室に眠っている。
二度と還っては来ない。
頼むから、目を覚ましてくれよ。
森下。
その時、森下の唇が微かに動いた。
───言葉にはならなかった。
【青く眠る 完】
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