プロローグ はじまりの観測、六月の七日

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プロローグ はじまりの観測、六月の七日

   その声は、慈愛に満ちているようで、酷く無機質で乾燥しているとも、感じられた。  淡々と必要な事項だけを語り、多くは、語りたがらない。  彼は、『観測者』なのだから。  貴方、あるいは、その誰でもない、誰かは、『観測者』から、こう告げられる。 「観測点Pより観測を報告。実行点Qが観測されました」  その誰でもない誰かとは、貴方でもあり、誰でもない、が、その誰かに呼称を与えるべきであろう。 「韮埼篥瑛(にらさきりきえ)。状況を開始して下さい」  男性とも女性とも、とられる響きの名の彼。  韮埼篥瑛は眠りの中に居る。  『観測者』の意図は、彼の霊的な核とも言うべき場所へと発信されていた。  一点の光、あるいは、空間に干渉する物体。韮埼篥瑛は世界から、そう観測されている。  そして、彼は役割を与えられた。  『観測者』と対を為す存在、『更新者』という役割を。  韮埼篥瑛は、世界から、あるいは、宇宙から観測される一粒の砂にも満たない存在であり、また、それらが無数にあって、内、それらから無作為に選ばれ、『更新者』であることを強制された。     
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