本能よりも速く

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そこに到るまでに、すでにかなり圧倒されてしまっていたが、最終目的地であるその室内に足を踏み入れた瞬間、あまりにも煌びやかで豪奢な空間に俺は度肝を抜かれた。 遥か頭上に位置する天井から吊るされているシャンデリア。そこから降り注ぐ、淡くまろやかな光に照らされたフロアには、華やかなドレスやシックなスーツに身を包み、グラスや料理の乗った皿を手に、優雅に談笑している人々の姿。 自分の日常とはかけ離れた光景に、思わず深いため息を漏らす。 都内にある、創業100年を誇る老舗の高級ホテル「ノーブル」のコンベンションホールにて。 クリスマスを数日後に控えた今日、学生時代に所属していたサークルの先輩の、お父上が主催するパーティーが開かれていた。 毎年12月25日の直近の土曜日に行われている、忘年会も兼ねた恒例行事で、参加者はそのお父上が経営する会社の社員や仕事上の付き合いのある方が中心らしく、本来はビジネス色の強い集まりなのだけれど、今回はそこで先輩の婚約発表をする事になったらしい。 『だからぜひともサークルの皆には来てもらいたいんだ。あの場所が俺と彼女の原点であり、そこで同じ青春時代を過ごしたかけがえのない仲間だから』 先月久々にかかって来た電話でそんな風に熱心に誘われた。 先輩は社会人になってからも度々サークルに顔を出してくれていたけれど、俺の方は卒業後、仕事に慣れるのに精一杯で、とてもじゃないけど会に参加している余裕などなく、その時点で約8ヶ月ぶりの会話だった。
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