誠実の命日

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   片手に持ったティッシュペーパー、目の前には“ウスピタ”。 いつか、人目を忍んで柑奈と2人、この車内で汗をかき合ったのを思い出した。それも、ぼんやりとではなく、ありありと。  柔肌の温もりや感触。喉の奥で鳴らしたようなか弱い声。指先や舌先の繊細な動き。暗闇で見え隠れする薄く開いた目。幸せそうな微笑みまでも。 あの瞬間、2人はきっと、映し鏡だった。    僕はティッシュを鼻に押し当て、一気に息を吐いた。ズズズ、と勢いよく煩わしさを吐き出し、それを丸めてビニール袋に入れた。 一連の動作が終わると、また、一段と静かになった。微かに揺れるビニール袋の音が、しつこく耳に残っている。  まだ、車のエンジンをかける気にはならない。 無性に、人肌が恋しい。こんなにも、こんな風になったのは初めてだ。 ――またね。 どこかから、そう聞こえた気がした。 脳裏で(みだ)らに揺れていた柑奈の姿が、徐々に、菜々子ちゃんへと変わっていく。
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