side.悟

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side.悟

奈帆が教室から出る所を俺……悟は反対側の扉で見ていた。 立ち去る奈帆の目に浮かぶ涙を見つめながら、ため息をつく。 部屋に入ると椅子に座って苦しそうな表情を浮かべる慎がいた。 「慎、本当にこれでよかったのか?」 「悟……ありがと。協力してくれて。」 俺が隣に座ると慎は弱々しく笑った。 「いいんだよ。これで奈帆は俺のこと嫌いになっただろうから。」 「そうか?」 「そうだよ。ずっとそばにいた幼馴染が男が好きだったんだ。しかもあんな言い方したんだから。」 慎は今にも泣きそうな顔でそう呟く。 これは俺たちが奈帆についた嘘だった。 奈帆に慎のことを嫌いになってもらうために、俺と慎が付き合っている振りをして、奈帆に見せつけたんだ。 「本当にいいのかよ、今ならまだ間に合うぞ。」 「いいっていうか、奈帆は俺といても幸せになれない。だったらこれが一番なんだよ。」 「けど……」 「奈帆が悟のこと好きだったのはちょっと堪えたけど。」 苦笑いしながら呟く。 「でも、いっそのことちょうどいいのかも。これで俺もちゃんと諦められる。」 慎がピシャリとそういうから俺は口をつぐむしかない。 ……慎は昔から体が悪かった。 でもそれはただの病気ではない。 世界でも稀に見る難病であることがわかったのは、俺らが高校生になってすぐだった。 うちの父親が働く大学病院でそれがわかった時、慎の寿命は長くて25歳だろうと通告された。 知っているのは慎の家族と俺の家族だけ。 初めは奈帆にもちゃんと言おうって言ったんだけど、慎が止めた。 奈帆が知ったら心配する。 慎のことでいっぱいになって奈帆の時間を全部捨ててそばにいる。 けど奈帆の人生を邪魔する訳にはいかない。 段々と衰えていく自分の短い人生のために、奈帆を犠牲にしたくないって懇願したんだ。 だから俺達は奈帆には言わないことにした。
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