前夜

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生まれて初めて葬式、というものに参加した。 よりによって大好きなおじいちゃんの。 葬式前夜から皆はバタバタしていてセーラー服の私はポツンといとこの3歳の女の子の手を握っていた。 「じぃじ、みる」 「また?」 「うん」 棺の側面を触りながら私をじっと見てくる。 これで何回目になるのかな。玩具もないこの空間はまだ3歳の子には退屈なのだろうか。 おじいちゃんが入っている棺の窓が見えるようにすっと柔らかい身体を持ち上げる。 小さないとこはじっと、おじいちゃんの顔を見つめると不思議そうに窓を触った。 「じぃじ、ねんねしてる」 「そうだね」 「いつおきるかな」 「…さぁ」 死、というものを理解してるのかしていないのかよくわからない。正直私だって初めて見た人の死に顔に動揺を隠せきれていない。 こんなに無邪気にはしゃぐいとこに黒い感情も湧き出てくる。 私は初孫だったから可愛がられていた。 なのにこの子が最近出てきて、それで。 オリンピックまでは生きるぞぉなんて呑気な声を出すおじいちゃんが目の奥に映る。 おじいちゃんは常に笑っていた。 おじいちゃんは冗談と歌が好きだった。 おじいちゃんはいつも私の身長を聞いてきた。 おじいちゃんは私の名前を付けてくれた。 名付け親がいなくなっちゃった。 ぽつりとそう思った。 「さっちゃん」 「…。」 「さっちゃん」 「…。」 「さっちゃん、さっちゃん!」 名前を呼ぶのが楽しいのか何度も何度も私の名前を呼ぶいとこに嫌気がさした。私は大好きな人が死んでこんなに悲しいのにこの子は死んだってことも理解してない。 バンバンと棺の窓を力任せに叩く無邪気な笑顔。 なんでそんなこと出来るの、それは私の大切な人なんだよ。 アンタだって私と同じ孫でしょう? 「さっちゃん!」 「叩いたらダメだって。寝よう。」 「じぃじと寝る」 「…一緒に寝かせてあげようか」 「パパとママも一緒がいい」 当然のように母親と父親に愛されたこの子が私のコンプレックスの塊みたいでほんとに同じ目に合わせてやりたくなった。なんて、冗談にしても笑えないけど。
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