優しい嘘悲しい嘘

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遼子は死の淵に在る。 43歳 独身 肺癌だそうだ。 私は遼子の夫でも恋人でもひょっとしたら彼女にとっては友人の類いですらないかもしれない只の元同級生の男だ。 私も男になりたかった。 彼女と知り合ったのは高校1年生の時。 忘れはしない。 世界一美しい女性だと確信した。 彼女はトップ進学クラスの女性だった。 そんな彼女に一ミリでも近づきたくて下の下だった成績の私も執念で同じクラスになった。 高校時代の思い出は二つ 告白して歯牙にもかけられなかったこと クラスメートの三角(みすみ)くんが休み時間に 「おいお前らすげーだろオレ遼子と天神公園で青姦したんだぜ」と言った一言。 あの日だけは涙の止まらない一日だった。 授業中教師に「中村お前どうしたんだ?」 と授業が変わるたびに問われたが、「なんでもありません」と応え続けて泣いた。 なんの見返りもなかった高校時代 それでも大学も彼女を追いかけて福岡の国立大学へ行った。 私は遅れて一浪して。 大学時代、彼女は本当に男に不自由しない女性だった。 おそらく同時期に複数の男性と交際していた。 大学3年の冬、寒さのせいだろうか遼子はもう一目見ただけで絶望の未来が見えている悪そうな歳上の男を追って大阪へ行った。 親の反対を押しきったのだろう、大学を中退。当然仕送りは止められ絶縁状態になったという。 後に両親とも舌癌と大腸癌で亡くなった。 私は大阪へは追って行かなかったが、それでも「頃合い」を見て彼女に四回告白した。 結果は言うまでもないが、SNSでの連絡先を教えてもらっただけでも私には大成果だった。 鹿児島と福岡と大阪 5回の告白失敗 それに季節商品なのでは?と疑問に思う位とっかえひっかえ変わる悪そうな男とのツーショット写真。私も二十代の頃は歯ぎしりを立てて眠れない夜、枕を濡らした夜もあったが、三十代の半ばを過ぎるとついにその思いも半ば諦めに変わった。 約20年、私は彼女と他の男とのラブラブ写真に絶対に「イイネ」はしなかったし、彼女からの「イイネ」もこなかった。
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