終章 エンド・オブ・ザ・デッド ~死者の結末~

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そうか、この《薬》の存在だ! キザムは右手に持った飲み薬にはっと目を向けた。前の世界で流玲はいつもキザムの体調のことを心配してくれていた。昼食後に飲んでいる薬については特にそうだった。キザムにいつもちゃんと薬を飲んだか確認してきてくれた。流玲にとってこの《薬》は、前の世界を感じさせる重要なキーアイテムだったのに違いない。 前の世界の記憶をすべて無くしていたはずの流玲だったが、今日と言う大事な日にキザムの薬を見て、記憶がフラッシュバックしてきたのだろう。 「なんだろう……この感覚……? すごく懐かしいような……でも、すごく切ないような……。だけど、わたしにはなぜか分かるの……。この感覚はとても大切な、とても大事な感覚なんだと……。絶対に忘れてはいけない感覚なんだって……」 ここではない別の空間を彷徨っていたかに見えた流玲の視線が、不意にある一点でピタリと止まった。その視線の先にいたのは──どうしたらよいか分からずに困惑した顔を浮かべたまま立ちつくすキザムだった。 「──土岐……ううん、違う。キザムくん、だよね? わたしのよく知っているキザムくん、なんだよね?」     
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