Nebula(霧)

4/8
57人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
 夜釣りのつもりであるし、月夜なら廃墟の写真撮影をしたいのでと丁寧に断りをいれた。漁師小屋の屋根下にバイクを置く許可をもらえた。漁師の男は網を干すと漁船を出し帰ってしまった。 「霧……神隠し、当たりだなぁ~」  デヴィットのレポートを読む。スマホの画面には文字がびっしり並んでいる。デヴィットとは元NSA の情報屋のことである。  教会のはじまりから三十年前の事件まで、この淤颶(よぐ)でのいろいろが記されている。念のため、スマホにデータをうつした。  水平線に太陽が沈んでいく。夜が訪れる。夕飯を摂り寝袋の上でゴロ寝をしてどれくらい経ったのか、霧がたちこめていた。 「おじさん、誰? 何処から来たの?」  気配がなかった。バイクのトランザルプの向こうから小さな子供の声がする。 「おじさんじゃない。お兄さんだ!」  仁はお約束の台詞を告げると子供の顔を見た。そこには不安気な表情の小学生くらいの男の子の姿があった。 ーー待人来たり? 「俺は枷門(かせど) (じん)だ。ライターをしている。君の名前は?」 「……誠」  少年は小声で呟いた。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!