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夜釣りのつもりであるし、月夜なら廃墟の写真撮影をしたいのでと丁寧に断りをいれた。漁師小屋の屋根下にバイクを置く許可をもらえた。漁師の男は網を干すと漁船を出し帰ってしまった。
「霧……神隠し、当たりだなぁ~」
デヴィットのレポートを読む。スマホの画面には文字がびっしり並んでいる。デヴィットとは元NSA の情報屋のことである。
教会のはじまりから三十年前の事件まで、この淤颶でのいろいろが記されている。念のため、スマホにデータをうつした。
水平線に太陽が沈んでいく。夜が訪れる。夕飯を摂り寝袋の上でゴロ寝をしてどれくらい経ったのか、霧がたちこめていた。
「おじさん、誰? 何処から来たの?」
気配がなかった。バイクのトランザルプの向こうから小さな子供の声がする。
「おじさんじゃない。お兄さんだ!」
仁はお約束の台詞を告げると子供の顔を見た。そこには不安気な表情の小学生くらいの男の子の姿があった。
ーー待人来たり?
「俺は枷門 仁だ。ライターをしている。君の名前は?」
「……誠」
少年は小声で呟いた。
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