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「行くよー。」
「え!?ちょっ、待っ!」
バタン!
幼馴染みの柊木尊(ひいらぎ みこと)が、盛大に顔から転けた。
「ごめん、尊。大丈夫?」
「~っ、ん。大丈夫。」
尊はとても整った、と言うか女の子のように可愛らしい面立ちをしていて。幼稚園の頃から私の後ろを、ひよこのようにくっついて歩いてきた。
血は繋がらずとも、可愛い可愛い、私の弟だ。
「それより、やっぱり諦めたら?ゆきりん。こんな小さい凧…三階まであげるなんて無茶だよ。」
「無茶かどうかは、実験してから決めるの!」
「ゆきりん。どうしてゆきりんが女の子で僕が男子なの?何かの間違いなんじゃ。」
「まあ!失礼しちゃう!古都吹ゆき(ことぶき ゆき)!れっきとした女子なんだから!」
「女子なら、気になる先輩には手作りのお弁当とかお菓子とか…。他にアピールできる方法はあるはずだよね?どうして凧あげなの?」
「だって…。」
私はチラリ。特別校舎の三階へ瞳を向けた。
「先輩、生物部でしょう?生物部は生物室で活動しているわけで…その。少しでも気づいて欲しいんだもん。」
「………。」
空白の時が流れる。その隙に風が、足元を擽っていった。折角の風の頼りを逃してしまったことに、私は数秒経ってからハッ!と気がつくのだ。
「ほら!行くよ。尊。」
「うん。」
凧の紐を持って走る…走る…走る。風が足りない。何とか二階まであがることはあるのだが、三階はやはり…さすがに無理なのだろうか。一縷の不安と、諦めが心をざわざわ、掻き立てる。
私は、生物室の窓をジッと見つめた。
(先輩…気がついてくれないかな。)
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