2.彼と彼女の交差点

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 その日は、雨が降っていた。  銀色の針が曇天から降り注ぎ、押し包むように惨めな彩綾を嘲笑う。ふらつく足が水たまりに踏み込み、ぱしゃんと跳ねた。 (はやく、はやく、かえらない、と)  ぼやける意識を無理に引き止める。帰らないと、いけないのだ。  さざ波を描く髪も制服もまとわりつく。ボロボロのローファーは水浸しで、手足の痣が痛々しく浮かび上がっている。  傘はなかった。  正確には隠されたのだ。捨てられたのかも、壊されたのかもわからないけれど。  血の気の失せた唇を噛み締め、どうにか前に進む。だが、足が思うように動かない。 (寒い)  傷だらけの腕で自分の身体を抱く。意味なんてない。どうしようもない虚しさが増しただけ。  くすくすと笑う声が聞こえた。何か言っている気もする。雨?人の声?  彩綾は朦朧とするあまり、音まで判別がつかなくなっていた。先ほど、階段から突き落とされて頭を打ったせいかもしれない。 (でも、大丈夫)  彩綾は大丈夫。生きているし、養育費もまだもらえているし、どうにか歩けてもいる。だから大丈夫、大丈夫なのだ。大丈夫ダイジョウブだいじょうぶ。  大丈夫じゃないとダメだから、だいじょうぶ。 「うん、……だいじょうぶ、だよ。わたしは、へい、き」 「そんなはずないだろ!」  激しい雨音を切り裂くように、聞こえるはずのない憧れの人の声が、聞こえた。
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