君キス2

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宜しくお願いしますね、と頭を下げ、バックヤードに入る。 厳しすぎただろうか? 緩すぎただろうか。 わからないけれど、私なりに、これが最善だと思える言葉だった。 そう思うと、堪えるのはまだまだこれからなのに、不思議とこの緊張感が心地よくなった。 後は、百貨店側への事情説明と夕方のお客様へのお詫び訪問だが。 百貨店洋菓子フロアの責任者への釈明は、思ったよりも責められることもなく終わった。 ただ、きっちりとお詫びしてお客様が納得されるように対応してください、とは念押しをされた。 当然だろう。 百貨店のプロパーに入っているということは、お客様の殆どはメーカーよりも百貨店へ信頼を寄せているのだ。 いい加減な対応を見せるわけにはいかない。 再び店舗に戻り、カナちゃんが再包装用の包装紙と熨斗紙をいれたショップバッグを差し出してくれる。 「大丈夫? やっぱり私も行くよ」 それは店長の顔じゃなく、友人として心配してくれている顔だった。 「向こう、男の人だし」 「大丈夫だって。カナちゃんはカナちゃんの仕事があるでしょ」 こちらはお詫びする側だ。 変に警戒してそれが顔に出るのも怖い。 そしてこれは私の仕事だ。 彼女の手からショップバッグを受け取って、私は店を出てかなり早めにお客様の家の方角へ向かった。 迷ったりしてこの上時間に遅れたりするわけにはいかないので、時間に余裕を持って向こうで待つつもりだ。 ふと、スマホを手に取ると時計表示に目をやる。 お客様の家に行くのが、六時。 そこからお詫びをしてすぐに包装に入らせてもらっても、小一時間くらいかかるだろうか。 個包装だけならそれほどかからないが、更に大きくひと箱で包装もしなければならないし、最初の包装を破く時間もかかる。 朝比奈さんが帰る時間には、間に合わないな。 諦めて、今日は遅くなります、とだけメッセージを送った。 出張から帰ってきたとしても、会社に顔を出すのは明日だろうから今日のことが彼の耳に入るのは明日だろう。
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