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「……でもね、冗談はさておき、何としても俺が蒼くんを育てたいと思った。それは本当」  井上係長が急に真面目なトーンになったので驚いた。  執務室内のうるさいくらいのざわめきが耳に入ってこなくなった。井上係長の言葉にはそれだけの威力があった。俺は、嬉しかったのだ。 「……やる気があるヤツは好きだよ。それに、眞田の姫が手塩にかけて育てた君をさらに立派にしてやりたいじゃないか。仕事に関しては厳しくいくから、覚悟しておいてね」 「ありがとうございます。頑張ります!!」 「……あ、でも俺のために立てこもり現場に飛び込んだりはしないでね!!」  井上係長が最後に冗談めかして笑ったので、俺も少し笑った。立てこもり事件のことに関しては、やらかしてしまった身の上として少し気まずいのだが。  とにかく、今日から井上係長の下で知識と経験をどんどん吸収していこう。次また眞田と勤務するまでに成長するんだ。今度は教わるばかりじゃなくて、少しでも対等に渡り合えるように。 「……早速だけどさ、今日の午後イチに着手ね」 「……着手?」 「うん。坂田部長から聞いたでしょ? 昨日、令状出たんだ。強制わいせつの被疑者、今日逮捕に行くから」  空気が少しピリッとするのを感じた。結城部長たちも真顔で井上係長の話を聞いている。 「本当は蒼くんに令状請求の仕方とかも見てもらいたかったんだけどさ、待てなかった」 「……これ以上被害者が出たら、駄目ですもんね」 「うん、そうだね。わかってくれてるんだ」 「俺が勉強したいからって着手を遅らせるなんて、絶対駄目ですから。……でも、昨日令状が出て何で今日の午後なんですか? 俺、事件の着手って朝イチでやるイメージがあったので」  平日であれば、被疑者が在宅の可能性があるのは、午後よりも午前中……特に朝一番のような気がするのだが。
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