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真ん中辺りに二つの空洞があって、中から垂れ下がった紐みたいな視神経の束が、眼球をつなぎ止めている。
鼻の位置にはスイカの種に似た穴が二つ。卵形にぽっかりと開いた、唇のない口。ドクロそのものが形作る、骨張った頬。
静かに深呼吸をして、俺は目玉に背中を向けベッドに丸まる。
あと二時間……二時間もすれば日が昇る、そうすればコイツもいなくなるはずだ。
落ち着きを取り戻し動悸が収まってくると、肝心なことを思い出した。
そうだ、携帯!
目覚まし代わりに使っているアラームが無いと、起きられない!
大学受験に備えて明日……じゃなくてもう今日だった……から夏期講習が始まる。遅刻するわけにはいかない。
同居人である爺さんは俺が起きる前にラジオ体操に出かけて、そのまま夕方まで老人クラブに居着くからアテに出来ない。
振り向くと、目玉はまだ俺を見ていた。
ゆっくりベット下に手を伸ばして携帯を探す。
よし、あった。
指先が、硬くて冷たい物体を探り当てた瞬間。
「べちゃっ」
冷たい腕が、タオルケットの下から伸び俺の腕を掴んだ。
「うぉあぁあああっ!」
ブラックアウトする意識の中、俺が心配したのは隣近所へ響いたかも知れない悲鳴と、遅刻の可能性だった。
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