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イダテンへの八つ当たりと、気が利かぬ自分へのいら立ちで奪うように取り返し、背負ったまま忘れていたのだ。
上等な拵えであることは一目でわかる。
長さも図抜けている。
義久が口にした言葉で疑いに変わったようだ。
この地で、これほどの大太刀をあつかえるものは兼親だけだ。
しかも錦でくるまれた鞘が血に濡れている。
「その太刀は、どうした?」
「何用で参った」
二人の男が矛を手にした。
だが、義久とて行方をくらませてからの二年半を無駄に過ごしていたわけではない。
満面の笑みを浮かべ、背負っている大太刀の下緒をほどき、手前に回しながら目立たぬように鯉口を切る。
「おお、これか。これはのう。こたびの戦で兼親様が、わしに……」
素早く踏み込み、渾身の力を込めて大太刀を一閃する。
返す刀で右手の丸顔の男の首筋を打つ。
弾けるような衝撃が腕を襲った。
正面に立っていた狐目の男は、声ならぬ声を上げ、自分の首から吹き出る血を押さえこもうと矛を捨て、手を添えた。
右手の丸顔の兵は、声も上げることができなかった。
首が、柿の実のように地べたに落ちたのだ。
わずかに遅れて血が勢いよく噴きあがった。
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