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回想
まさか、生きているとは思わなかった。
あの男には、大きな借りがある。
斬られたとて、文句は言えないだろう。
杖を手にしてはいるが、それに頼る様子は無い。
足の運びはむしろ、並みの人間よりも早かった。
ただ――髪の色は驚くほど白い。
とても、自分と同い年の男とは思えない。
随分苦労をしたに違いない……
そう思うと、つい目頭が熱くなった。
小森庄左衛門は、足早に後を追い、その小柄な背中に向けて声をかけた。
「弥之介!」
男は、振り返らない。
「弥之介っ!!」
再び声をかけた時、庄左衛門は鯉口を切っていた。
さように無視してのけるつもりか――!
一息に距離を縮めるなり抜き打ったが、その刃の先に、弥之介はもういなかった。
「馬鹿じゃねえのか、危ねえな。まったく――会うたびいつもいつも不意に斬り付けてくるとは、一体どういう了見なんだ」
「あれは……」
あの日のことは、庄左衛門にとって、痛恨の出来事だった。
おそらく、弥之介にとってもそうだろう。
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