from kaede.

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 ――from kaede.  仕事を終え帰宅した優介は、パソコンに楓からメールが届いていることに気付いた。  ネクタイを外しながら椅子に座り、マウスを操作する。 『お仕事は終わりましたか?  今日も一日お疲れ様です。』  短い文だったが、優介は表情を綻ばせる。 「……相変わらず、なんで敬語なんだよ」  変わらない彼女からの連絡に、さっそく返事を返す。 『仕事は今終わったよ。  そっちはどう? 体調は悪くない?』  すると、すぐに彼女からの返信が。  『体調は大丈夫です。  明日は、お買い物に行きます。』 『分かった。あまり無理をしないように。』  そして優介はメールのやり取りを続ける。  とりとめのない話ではあったが、彼にとって、それはとても大切な時間だった。  学生から社会人になり、世間の荒波に飲まれる毎日。当初一人暮らしを始めた時、都会の一角にあるマンションのワンルームは狭く、そして、無機質なもののように思えた。それでも、数年も住めばその色に染まる。仕事で失敗し、取り引き先に頭を下げ、夏の暑さに項垂れ、冬の寒さに身を縮め……。  これが社会人なんだ。これが人生なんだ。これが普通なんだ。と、自分に言い聞かせ続けていた。それでも、時々何かが途切れそうになる。  そんな時に、力をくれるのが彼女からのメールだった。  優介はポケットからスマートフォンを取り出し、日付と時刻を確認する。そして、キーボードを叩いた。 『そろそろ休む。また、明日。』  そして、楓から返事が送られる。 『わかった。  また、明日。』  優介は少し名残惜しそうにパソコンから離れ、眠る準備を始めた。  
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