5人が本棚に入れています
本棚に追加
夏の庭
昼の温気はいつまでも去りやらず空は白みはじめていた。
◇
強く白い陽射しの中に黒の紗の着物を着た女がいた。女は濡れ縁に片手をついて腰をかけ、ぶらぶらと白い素足を揺らしていた。漠と、わたしはこの女をよく知っていると思った。
女は黒い紗の衿の下に覗く真っ白な絽の半襟に、つとその白くて華奢な指を添え、僅かばかり寛げると、今度は同じ手で反対側の襟元をついとつまみ、同じようにした。それから細い人指し指と中指の先を襟元に潜らせると胸乳のあたりから首筋へするりと滑らせた。女は汗で濡れたその指先をちらりと見る。薄紅色の形の良い唇が動いた。
こうも暑くてはよほど色などないほうが過ごしやすくていいわねえ
そうかもしれない。
ああ忙しいねえ。忙しい、忙しい
最初のコメントを投稿しよう!