♯1

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この日、珍しくアラームより早くに目が覚めた。 携帯にセットしていたアラームをオフにした瞬間、代わりに着信を告げる電子音が鳴った。 液晶画面を見ると『非通知』と表示されている。 「もしもし」 耳に当て、決まり文句を口にする。 『もしもし、朝早くごめんね』 耳に届く声に聞き覚えがない。 時刻は6時前。確かに早朝と言える時間だろう。 頭をよぎったのは、不幸を知らせる連絡。 今度は幾分硬い声で問いかけた。 「もしもし?」 『もしもし、誰だかわかる?』 この返答で、不幸連絡説は打ち消された。 不幸を連絡する人は、こんな悠長なこと言わないだろう。 そうすると可能性はイタズラ電話、もしくは詐欺電話だ。 肩の力が抜けた。 さて、どうしたものか。 『ごめんね。迷惑だよね』 決して急いでいる様子もなく、詐欺の常套句であるトラブルの話も出てこない。 『もしもし、誰だかわかる?』 「うーん、三浦くん?」 三浦くんは、同窓会の幹事だ。 声色は全然違うけど、早朝に電話をよこす友人なんていない。 他に思いつかなかった。 『うん、そう』 耳に心地いい。高すぎず低すぎない声。少し掠れているのもいい。 「なんの用?」 『迷惑だった?』 進展しない言葉遊びに、いい加減ジリジリしてきた。 そろそろ、出かける準備を始めたい。 「っていうか、ダレ?」 尖った声で問う。 『やっぱりわかんないんだ。わかると思ったのに』 「ごめん。切るね」 なぜが後ろ髪を引かれる思いに駆られたけれど、通話を終了させた。
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