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お昼のあと、ひさしぶりにベランダに出た。
ガラスの向こうで吹いている風が、気持ちよさそうだったから。
そんなの見えるはずがなくて、気のせいなのはわかっていたけど、あっけらかんと晴れた外の空気を、むしょうに吸いたくなったのは、本当だ。
高台に建ったマンションからは、景色がよく見える。まわりに高い建物がないぶん、よけいにのびのびと感じる。
手すりをにぎって身をのり出すと、くっと背すじがしまった気がする。
一軒家やアパートの、黒っぽくくすんだ屋根がつながっている。オレンジのかわらをのせた家がぽつんと一つだけあるのが、やけに目立つ。
赤や白、黄色の車がゲームの駒のように進む。
黒いアスファルトが、マンションから見下ろすと、少し光って見えるから不思議だ
部屋でふさぎこんでいたせいか、たくさんの色が目に沁みた。
この日以来、ベランダでぼんやりと周りのようすをながめることが、日課になった。
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