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民衆の間では「太平の眠りを覚ます上喜撰、たった四杯で夜も眠れず」という狂歌が流行った。要するに、上喜撰というお茶と蒸気船をかけ、お茶を四杯飲むと眠れないのと同様に、蒸気船が四隻来ただけで不安で眠れない、という意味だ。多くの人の恐怖心を代弁した歌である。
そんな中、試衛館においては黒船来航の思わぬ恩恵に預かっていた。
「さくらぁ、また入門希望者だ」
周助が顔をほころばせた。 黒船来航の知らせからふた月が経ったころである。
異国人がすぐにでも攻めてくると思ったの か、自分や家族の身を守らねばと、剣術道場の門を叩く者が急増していた。
試衛館も例にもれず、入門希望者がひっきりなしにやってきていたので、周助の機嫌がよくなるのも無理はなかった。
周助の機嫌はよくなったが、門人に稽古をつける必要性も増え、勝太とさくらは毎日へとへとになっていた。
しかし、さくらにとってもうれしい出来事もあった。
源三郎が、試衛館に住み込みで稽古をすることになったのだ。
出稽古で周助たちが来るのを待つだけでなく、自分も試衛館で稽古したいという思いが強くなったそうだ。
幼少のころから、兄のように慕っていた源三郎である。さくらはもちろん、勝太や惣次郎も、おおいに源三郎を歓迎した。
こうして、勢いに乗り始めた試衛館だったが、そんな日々は長くは続かなかった。
数日後、さくらと源三郎は道場の掃除をしていた。
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