11.黒船

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 余談だが、赤鬼として描かれている人物はペリー提督である。この時代の日本人は、「赤ら顔の外国人」など当然見たことはない。顔が赤くて鼻が高いとくれば、もう天狗か赤鬼にしか見えないのである。それで得体の知れない恐怖心が脚色した結果、ペリーの似顔絵はもはや人間には見えない代物となっていた。 「惣次郎、大変なことになったぞ」似顔絵とは対照的な青白い顔で、さくらが言った。 「このペルリとかいう赤鬼、いきなりこのような大きな船で浦賀に現れ、」  さくらは瓦版を惣次郎に見せ、黒船の絵を指し示した。 「日本を開国しろと、公方さまに詰め寄っているらしい」 「ええっ!?」  三人はもう一度瓦版を覗き込んだ。 「日本はどうなってしまうのですか?」惣次郎が不安げな面もちで尋ねた。 「そのようなことを言われても…」さくらは答えに詰まった。 「大丈夫、何も取って食おうって訳じゃないんだし、開国なんかしないとちゃんと断れば、異人なんかすぐにお国に帰っていくさ」どこから沸いてくるのかわからないが、勝太が自信を持って言った。 「うん、それもそうだな。安心しろ惣次郎、今すぐ攻め入ってくることなどはないわけだし」さくらも気軽な調子で言った。  それを聞いて惣次郎も安堵の表情を見せた。    しかし、勝太の言ったことは、楽天的発言だったと言わざるをえない。  この黒船来航の影響で、日本はのちに日米和親条約を結び、長い鎖国の歴史に幕を閉じるのである。     
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