11.黒船

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「前より門人が増えて大変そうだったから、手伝ってやろうかと思ってたのにさ」源三郎はにやっと笑った。 「大きなお世話だ」対して、さくらは少し腹を立てていた。  黒船来航をきっかけに入門した門下生は、始めるのも急だったがやめるのも急だった。  厳しい稽古についていけない者、ある程度通って「護身術程度ならこんなものか」と見切りとつけた者、稽古料がやっぱり払えないという者―――  最近、道場は以前のように、多すぎず、少なすぎず――多少、少なすぎると言ってもよかったが――という人数で使っていた。  こうして、にわかに活気づいたかに見えた試衛館は、元の木阿弥となってしまった。  周助は肩を落としていたが、さくらはこのくらい静かな方が好きだし、自分の稽古に集中できると思っていたので、むしろ喜んでいた。門下生が多いと、何かとバタバタして忙しく、落ち着く、ということとは無縁な生活を強いられるのだ。 「平和でいいことではないか」さくらはにっこりと笑った。源三郎も笑い返した。  黒船来航がもたらす動乱の時代を、さくらたちのような庶民がまだ知る由がなかった頃の話である。
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