世界が終わる前に

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 「……綺麗だね」    隣で寝転ぶ彼女の顔はひどく穏やかで。  「……うん」  気の利いた一言が言えればよかったんだけど。僕にはそんなもの思いつかないし、伝えられない。ただ、同意の言葉を呻くかのように漏らしただけ。  情けない。  今、彼女の隣にいるのが僕であることが申し訳ない。  あと五分で、巨大な隕石が地球にぶつかって、地球は粉々になるんだそうだ。  最初のうちは皆馬鹿にしていた。またかよ、何回目の滅亡だよ、なんて。  だけど、今日が近付くにつれてその笑顔は引きつっていった。実際に近付いてきている。あちこちの有識者が言い出したのだ。  唖然となって、顔を見合わせて、見つめ合って、それから。  笑う者も、泣く者も、怒る者もいた。  僕は笑った。  彼女も笑った。    『地球最後の日、なにする?』    そんな幼稚な問いが小学校で飛び交ったことを思い出す。僕は一体、何と答えたのだったか。  ……まあ、そんなこともういいや。  彼女が隣にいるんだ。それ以外のことなんてどうでもいい。    恐くはなかった。  見上げる空は、いつもと同じか、下手したらそれ以上に青い。彼女が綺麗だといったのも頷けた。  これで、終わり。  全部終わりなんだ。  ねぇ、神様。  いるのかいないのか知らないけどさ。もしもいるんだったら、どうか一つだけお願いを聞いて。  僕と彼女が、離れることのないように。  彼女の手を握る。ぎゅう、と握り返された手は汗ばんでいて、痛いくらいに力が込められていた。    「ねえ、怖くない?」  「怖く、ないよ」  「……そっか」  沈黙。  予定の時刻まで、あと一分。  「……ねぇ。僕さっき、嘘ついた」  「……怖い?」  「……うん」  彼女が目尻を下げて笑った。  そして、    「私も」    と照れくさそうに言った。  ああ、クソ。気を抜くとすぐにでも声を上げて泣き出しそうだった。怖いよ。怖いに決まってる。だけどそれより、彼女があまりにも綺麗だったから。  なんで、終わるんだよ。チクショウ。  「ねえ」  言ったのは、どちらだったのか。  「愛してるよ」  嗚呼、大嫌いだよ神様。  空の色がおかしくなる。  僕は彼女にキスをした。  地球滅亡まで、あと三、二、一――
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