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……とりあえず水を飲もう。
冷蔵庫をあけてミネラルウォーターを飲み、若菜のぶんも水をコップにつぐ。
ほんと、なにかしていないと落ち着かない。
だけど、動き回っているのも不自然で、俺はコップをもってローテーブルの近くに座った。
脱衣所のドアがあき、タオルを首にかけた若菜がこちらにやってくる。
「あ、お風呂ありがとう」
「水飲む?」
「あっ、ありがとう」
髪が濡れたままの若菜に水の入ったコップを差し出す。
修学旅行の夜がふいによぎった。
若菜の部屋着姿を見たのがその時だったからだろう。
小学校の時は同じクラスで、その後みんなで夕食だった。
中学の修学旅行の時は違うクラスで、風呂上りの若菜はたまたま見かけた。
若菜は女子たちとお土産屋に行くところで、そこに若菜と同じクラスの男子数人が合流した。
あの時楽しそうに歩く若菜を見て、なんとなく複雑だったことも思い出す。
今若菜は、俺の渡したTシャツとズボンを着て……まさに“泊まりに来た”って感じだ。
その姿の破壊力を想像していなかったから、まともにくらって目が合わせられない。
俺のまわりだけ温度があがった気さえした。
「湊もお風呂入る? さっと洗っておいたんだけど」
「あー、ありがと。俺はシャワーでいいや」
「そう?」
とりあえず、俺もさっと体洗ってこよう。
もういい時間だし寝る時間だし、若菜を寝かさなきゃいけないしと、動揺しそうになる自分に暗示のように言い聞かせる。
「ドライヤー持ってくるからここで乾かして。俺も入ってくるから、眠かったら寝てていいから」
ベッドを指さした後、脱衣所からドライヤーを取ってきて若菜に渡す。
「ありがとう。……なんか、なにからなにまで、湊にお世話になってるね」
「それ、いつものことだろ」
「そうかな。そうかもね」
ふふ、笑う若菜を見て、俺にも自然に笑みが浮かぶ。
言葉通りさっとシャワーを済ませ、部屋に戻ると若菜は髪を乾かし終えたところだった。
「もう寝ようか。若菜ベッド使って」
「……ほんとに湊、床で寝るの?」
「別になんとかなるからいいよ。ほら、布団入って」
ベッドの布団をめくり、気が進まなそうな若菜の肩を軽く押す。
若菜はどうしたらいいかわからない、といった顔で瞬きを繰り返していたが、俺に押されてベッドの端に座った。
「遠慮してるならいいから。寝ろって」
「…………」
「若菜」
「……湊。ぜんぜんわかってない」
「は?」
意味がわからず目を瞬たかせた時、若菜は赤い顔で俺を睨みつける。
「湊を床で寝かせて、自分はベッドで寝るなんて、できるわけないじゃん」
「いや、俺がいいって言ってるんだから、いいんだって」
「私たち付き合ってるよね?」
若菜の声が強くなり、思わず俺のほうの声がしぼむ。
「あ、そりゃ……。うん」
「じゃあ」
若菜はぐいっと俺の腕をひっぱり、自分の横に無理やり座らせた。
「湊も!床じゃなくて、ここで寝て!」
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