清水湊side3

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脳内が停止した。 俺を掴んでいる若菜の手とその熱さが、停止した脳を揺さぶろうとする。 “ここで寝て” 手を出さないように―――若菜が安心するように床で寝ようとしたのに、その若菜が俺の腕を離さない。 若菜は真っ赤だった。 頬を膨らませ、睨むようにこちらを見つめる若菜に対し、しどろもどろの声が出る。 「あっ、や、え……っと……」 「………」 「…………うん」 「じゃあ、寝よ」 若菜は俺の腕を引っ張って、ベッドの奥側へ横になる。 反射的に俺も体を横たえようとするが、頭の中は真っ白になったままだ。 一瞬、身を起しかけた。 でもここで横にならなければ、若菜が怒るのは目に見えている。 心を決めて、ぎこちない手で若菜を腕の中に納めると、若菜の髪が自分の喉元にあたった。 一緒に横になると決心したのに、心臓がばくばく言っている。 こうしたい、と思ったことはあるし、付き合ったんだから、いつかは一緒に寝ることだってあるとは思っていた。 でも唐突にその機会が訪れると、スマートになんてできない。 それに、今は今で、若菜にどう思われているかが気になって仕方がなかった。 そろ、と若菜の髪を撫でると、せっけんの香りがふわりと立った。 何度か撫でるうち、緊張より愛おしさが沸き上がってくる。 そうなると、すこしだけ力が抜けた。 「……寝れそう?」 「……まだわかんない」 「そっか」 若菜は身じろぎして俺の胸に顔をうずめる。 とりあえず、寝られるまで背中を撫でていよう。 そう決めて優しく撫で続ければ、若菜の身体の力も抜けてきた。 「……ありがと。ちょっと落ち着いた」 「そっか」 「……さっきの」 「え?」 「変に思った?……ベッドで寝てって言ったこと」 「いや。ほんとはそういうの、俺が言わなきゃいけないかもって思いはした」 「ほんとだよ。湊が言ってくれてたら、顔から火が出そうにならなくて済んだのに」 若菜がうらめしそうな声で言う。 その後、ふっと吐息を吐くように笑った。 息がかかってくすぐったく感じながら、俺も小さく笑みを浮かべる。 「そうだな。今度からは気をつける」 「うん」 若菜の身体が動いた。 そのまま顔をあげた若菜と、目が合う。 顔が触れそうな距離だった。 豆電球の薄明かりの中、お互いの目が合った。 ドキッとしたのは俺だけじゃないと、若菜の表情を見てわかる。 この空気が気恥ずかしい。 恥ずかしくて目を逸らしかけた。 でも俺がとった行動は、目を逸らすでも、照れ隠しに抱きしめ直すでもない。 顔を近づけ、若菜の額に触れるだけのキスをする。 それは本当に無意識で、愛おしさが熱されて、膨らんで、頭より先に体が動いた。
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