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老朽化したコンクリートの外壁には無数の亀裂が生じていた。補修も改修も行われずそのまま放置されてから、いったい幾年月が経過していたことだろうか。僕には分からない。
だけど、階段を上る僕の足が躊躇いを覚えたのだけは確かだ。
地上五階建ての賃貸物件。各フロアとも何かしらの業者が看板を掲げており、僕がこれから向かう二階フロアにも当然看板が出ていた。
くたびれたそのドアには白いプレートが貼り付けられており、其処には黒く太い文字で「大和探偵事務所」とだけ記されていた。
この探偵事務所を紹介してくれたのは古くからの知人で、小さなメモ紙に住所と連絡先だけを記して渡してきた。
色々と尋ねたかった僕に対し、「あんなボロい探偵事務所、行けば直ぐに分かるから」、と言って半ば強引に会話を中断すると乗り付けていた高級外車で去ってしまったんだ。
僕が不安を覚えたのは、別に建物の古さだけが原因じゃないのさ。
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