9.休まない翼

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「・・私はね、気に入ったものは一度は手の内に入れたいんだ。相応しいとか相応しくないとか、そんなことはどうでもいい。欲しいと思ったら欲しい。それに、つまらないこの王宮で、私に従うばかりの楽園のオメガ達にはもう興味が湧かない。君がいいと思う理由はいくつかあるけれど、一つはその血かな。君は西方で滅んだムーサの出身だろう?」 「・・何で、そのこと・・。国の名までは、誰にも言ってない・・。」 恐ろしい事を聞いたその次には、自分の正体を暴かれた。ジーンやヴェントに言った事はあったけれど、それがリアムに伝わったのだろうか。それでも、国の名までは言っていないはずだ。 「3年前に会った後・・正体不明のオメガが気になってちょっと調べたんだ。君の言葉には独特な異国の訛りがあった。あの国から逃げてきたのは君たちだけじゃないから、ほどなく分かったよ。君はあの小国で人気があったらしいじゃないか。君は貴族で、戦で死んだ婚約者は王族だった。・・君のその傲慢さもプライドの高さも、貴族だというなら理解できる。ジンにも会ったけれど、彼が話す言語は西方の言葉だね。」 ぎし、と寝台をひずませて体を起こしたリアムは、どうだとばかりに笑顔で手を差し出してくる。その手を恐る恐る取って立ち上がった。 「文化と芸術の国と呼ばれただけあって、君たちの舞踊は素晴らしい。かの遠き国のオメガは美しく芸に秀でていると伝え聞いて、昔から興味があったんだ。つまらない領土争いで滅んでしまったのは本当に残念だ。君達がムーサ出身だと知ってから俄然興味を持っていた。」 話しながら部屋の中央へと誘われた。 豪奢なテーブルの上には、リアムが自分の為にと揃えた装飾品がそのまま残されている。リアムはその中から黒い石の髪飾りを手に取り、そっと髪に挿した。重くはないはずのその髪飾りが、やけに頭を重くする。
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