車軸

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 段差も何もないところで転ぶ、そういう時がある。転んだだけで何かが砕けてしまって、身を起こすことすらままならなくなる、そういう時がある。きっとその時、僕らの心は静寂に犯されているだろう。僕らの中に潜んでいた真っ暗な何かが、奥深くの巣穴から顔を出すのだ。それは唐突に意識の中で目を開き、それからゆっくりと、僕を飲み込んでいく。少しずつ、少しずつ。そして霞がかった理性の片隅で僕は、それが何者であるかを悟る――――。  ――――降り出した夏の雨は、そう簡単に止まない。
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