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いつもそうだ。好きでも大好きでも愛してるでもなくて、もっと違う感情。それらをベースにした、もっと大きな気持ち。人はそれを愛と呼ぶのかもしれないが、真杜はそんな簡単な漢字一文字で、この気持ちを片付けたくなかった。
「ねえ? うのちゃんは、俺のこと好き?」
小さな声で少し眠たそうに聞かれ、やはりおかしいと雫は思う。
「今さらなに言ってんだよ。好きじゃなかったら、この状況なんなんだよ」
「だよね。他にもっとねぇのかなぁ……好きってだけじゃ足りないっていうか」
「なかしま?」
子供みたいに頭を胸に擦り寄せてくる真杜に、雫の心臓がどきんと跳ねる。こんな真杜を雫は知らない。
「……どうしたんだよ」
「感情が迷子」
(迷子? なかしまが? 嘘だろ)
人の感情までいつも見事に言い当てる真杜が、自分の感情を見失うなんてありえないことだった。
「言葉がね、見つからないんだよ。好きも大好きも愛してるも違う。うのちゃんのこと大事にしたいし、してるつもりなんだけど……時々、さっきみたいにおかしくなるんだよ。そういうの、なんて言うの?」
真杜が見つけられない答えを、雫が見つけられるはずもない。
「別に言葉にしなくてもいいんじゃね?」
「え」
「だって、ないんだろ? それに相応しい言葉が。だったら、ほら……なんだっけ。月が綺麗ですね、みたいなやつでいいんじゃね?」
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