第29話【俺の相方はヒーローではありません。】

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 月が綺麗ですね。  それは、かつて有名な文豪がアイラブユーを和訳した言葉。当時の日本には、まだ「愛してる」という言葉が定着していなかった。それに変わる表現が「月が綺麗ですね」なのだ。 「え……あ、はは……すげ。うのちゃんて、やっぱロマンチストだね」  無理に言葉にせず無理に見つけようとせず、それに代わるなにかを自分で作ればいいという雫の発想は、真杜にはないものだった。 「虹色キャラメルって、どういう意味かわかる?」 「は? なに急に……意味って、だって、それ……漢字とカタカナの組み合わせがいいからって、おまえが決めたんじゃん」  響きがいいとか略しやすいようにとか、特に深い意味はないと雫は思っていた。 「虹は幸運を運んでくるとか、女子受けがいいようにとかっていうのもあるんだけど、そういう意味で決めたんじゃないんだよ」  真杜はコンビ名の由来を、雫には一生言うつもりはなかった。だけど今、迷子になっている感情をそれらしい言葉で伝えるためには、これを言わざるを得ないのだ。 「雨あがりにかかる虹。キャラメルみたいな声。うのちゃんのことだよ」 「……え? は? は?」 (俺? 俺なの?)  コンビ名を決めたのが「今」だというなら話もわかる。だけど、コンビを組んですぐに真杜が決めたのだ。まだ雫が真杜を好きだと自覚もしていない頃に。
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