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「初めて会った時、うのちゃんの声がいいなって思ったし、名前も綺麗でいいなって気に入ったの」
「う、うん?」
「顔も性格もぜんぶ。密かに俺のお気に入りだった。この子と一生漫才やるんだって思ったから、うのちゃんへのリスペクトをコンビ名に込めたんだよ」
そんな話は当然、雫は聞いていない。驚く雫を見て真杜がくすりと笑う。
「だから、うのちゃんは最初っから」
俺のお気に入りなんだ、と。
雫の耳もとで囁かれたそれは、きっと『月が綺麗ですね』の進化版なのだと雫は気付く。
「……お、お気に入りって……そんな、人を物みたいに」
「嫌? 俺、気に入ったものは、ずっと使い続けるタイプだよ」
「知ってるけど」
そう。真杜は気に入ったものは決して手放さない。壊れても修理して使うタイプで、例え同じものがあったとしても新しく買ったりはしないことを雫は知っている。
だから、この男に気に入られ最初に手に取られたものだけが『お気に入り』の称号を得られるのだということも――。
(え。なんか、愛してるって言われるより嬉しいんだけど!!)
「……言っとくけど、俺は一点ものだからな! 返品交換はもとより、再販もねぇんだから超大事にしろ!」
「ふ、なにそれ。超かわいいんだけど」
好きでも大好きでも愛してるでもなく、お気に入り。言葉にしたら随分と軽く聞こえるのかもしれないが、それが真杜の最大級の愛の言葉なのだ。絶対に手放さないということが、最初から確約されている最高の契約でもある。
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