君は時々嘘をつく

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「柏倉、メモ頼む。これから交番からの応援が来たら、若いやつに家の図面やらせて。部長には、近所の聞き込みを頼んで。井上係長が奥さんからの事情聴取を終えるまでに、やれることをやっておこう」  某署の刑事課に勤務する結城巡査部長は、大きな鞄を持っていた刑事課の相棒である柏倉巡査長に次々と指示を出す。  結城の上司である警部補の井上は、こういった指示を的確に出せる結城に絶大な信頼を寄せている。そのため、井上は人当たりの良さを生かして家人からの聞き込み役に回る。  結城もそれを知っているので、自然と遺体に向き合うようになった。 「了解です。写真も撮っておきますね」  指示を出された柏倉は、部屋の中の様子や遺体の写真を撮った後、大きな鞄から検視に必要な道具を次々と出し、それと同時にメモの準備を整えていく。  結城は、ふぅと一呼吸置いて、遺体に手を合わせた。それに倣って、柏倉も手を合わせる。  ――――ごめんなさい。  いつも結城は、検視の前に心の中で謝る。  本来であれば、故人もゆっくりと休みたいはずだ。それを見ず知らずの刑事たちが服を脱がせ、体に触れ、様々な部分を観察していく。  屈辱的だと思う人もいるのではないか、と思ってしまう。  それでも、検視に曖昧なことは許されない。徹底的にやらなくてはいけない。  刑事たちの使命は、事件性の有無を判断して、死因を明らかにすることだ。  要は、検視とは、自然死に見せかけた他殺ではないかという疑念を取り払っていく仕事ということになる。最初から疑ってかからなくてはいけないのは悲しいことだが、そういった事件がある以上、やらなくてはいけない。  例え、検視の99パーセント以上が自然死であったとしても、残りの可能性を見逃さないために、事件が葬り去られぬように、刑事は遺体に触れる。  1日に何件あろうと、やることは同じだ。  淡々と、遺体に向き合う。こういう家庭だから簡単でいいとか、そういった妥協は一切ない。
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