春*はじまらないものがたり

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+++  ニュータウンに春が来た。  風が吹くと、何処からともなく桜の花びらがやって来て、僕に触れてはフワリと地に落ちる。  温かい風。(うら)らかな日差し。柔らかな土曜日の午後。  人間ならば、こんな日には思い切り伸びをしたくなるのだろうか。  人間ならば。  ザン、と風が舞い上がって、視界が淡く薄桃色に染まった。 「こんにちは」  ニコと笑って、小さな女の子が肌に触れる。  癖のある髪は愛らしく、まんまるの瞳は疑うことを知らないかのよう。  返事をして良いものか、僕は少しだけ戸惑った。 「……こんにちは」  考えた末の返答だった。気持ちだけは、女の子に目線を合わせて屈む。  と。其処(そこ)にあった筈の女の子の目がない。  ただ、遠くから幼い人間特有の高めの声が聞こえた。    おかあさん、きがしゃべったあ。  あらあらそんなわけないでしょう。  でもお……。  時折困ったような女性の声が混じる。話し声が遠ざかる。 「話し掛けたのは、失敗だったみたいですな」
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