黒鬼と派遣社員

38/56
78人が本棚に入れています
本棚に追加
/419ページ
「ちょ、ちょっと!何なんですか!?ていうか、こいつらの念なんて……っ」  確かに向かってくるのは全てが動物霊。  (おも)いを理解してあげようにも理解なぞ出来る筈もなく……英太はパニックに陥った。  しかもその動物霊は昨日英太や薫を襲った悪霊達と同じように黒色を帯びていた。 「これは……さすがにヤバいか。英太!俺から離れるなよ!」  慌てふためく英太の前に立ちはだかる松岡を狙って、先頭の狸の肩越しから一匹の狼が飛びついてきた。  狸を追い越した勢いもそのままに、松岡の喉笛を一直線に目指す狼霊。  しかし松岡は落ち着いて狂気の形相をした狼の首根っこに回し蹴りを叩き込んだ。  その瞬間に白い蒸気が立ち昇り、霊体を気化させ始める狼。 「赤っ!青っ!聞こえるか!?」  松岡の大声に黒鬼がぴくりと眉を動かす。  やたらと喧しいと思っていたが、自分もこうやって大声で呼ばれたのか……と、自分が此岸に呼び出された時を思い出す。  そして……同じ鬼ならば専属契約している自分を使えば良いのに、なぜ地獄で獄卒として勤務中の赤鬼と青鬼に声を掛けたのかが解せなかった。 「今からそっちに、大量に動物霊の魂を強制送致する!後処理の方、頼む!」  そう言いながらも松岡は次々と獣に触れていき、その度に蒸気が噴き出されていくと……みるみる内に白い靄が辺りを包んだ。  なるほど……と黒鬼は合点がいった。  松岡が気にしているのは(あやかし)此岸(こちら)側に於いて亡者に触れる事が許されていない件。  それを知っている松岡がここは自分一人で何とかしようとしているのだ。  厳密には鬼は妖とは違う。  閻魔直属の獄卒として、ある程度であれば此岸での亡者対応も請け負っているのだが……松岡はそこが分かっておらず、そして黒鬼も今はそれを松岡に知らせるのは()した。  それは黒鬼が松岡の実力を更に見てみたくなったが為であり、更には相棒兼お目付役である筈の鈴がその事を松岡に黙っている為でもあった。
/419ページ

最初のコメントを投稿しよう!