いきなりのエンディング

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あの頃よりも伸びた髪は、突然の雨で少し湿っていた。持っていたハンカチで軽く叩くようにふき取り、駅の改札口が見えるコーヒーショップの窓側に腰掛けたのは、20分前のことだ。 本当はもう来るつもりはなかった。きっと呼び出された理由もあの頃と同じなのは気づいている。彼よりも誠実で優しい男性がいることをこの数年で実感してきた。 サヤカにとって、岸辺ツトムが初めて男だった。恋愛に奥手だったわけではないが、男女の面倒な付き合いをずっと避けてきたからだ。なのに、ツトムは簡単にサヤカの中へ入り込み、体だけでなく心まで鷲づかみにした。ツトムによって男性を知り、恋の難しさも分かった。 2人は不倫関係にあった。ツトムには妻子がいたのだ。それがサヤカを油断させていたのかもしれない。大人の男性の理性をどこかで信じていたのだ。勤め先の会社に2人の関係がバレたことで、サヤカは職場を辞めた。短大を出て初めての会社だったから、田舎の両親が何度も理由を知りたがった。不倫がバレたとは言えない。だから、仕事が嫌になったと繰り返し説明した。母親は、答えになっていないと言った。もちろん分かっている。でもそれがサヤカにできる説明なのだ。 改札口からあの日と同じスーツ姿の男性が、傘もささずに駆けてくる。今日も、あの日と同じ雨の日が降っている。サヤカは薬指のリングを外し、カバンにしまった。懲りたはずなのに、何か期待している自分がいることにサヤカは思わず小さな笑みを浮かべていた。
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