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「確かに話しましたけど、ここまで相手が迫って来るとは……このお客様が軽薄すぎるのでしょうか。風師さんの追伸内容が劣情を掻き立てる文面だったのか、あるいは風師さんをじかに眺めて、その姿に惚れたのか……」
「掃除中に一回、鉢合わせました」
「なら、そのときでしょうね。風師さんはのろまなドジっ子さんですから、掃除が遅れたせいで姿を目撃されたわけですね」
のろま。ドジ。笑顔で発せられた言葉が胸に刺さる。
時花の個性がこんな形で影響を与えるとは、予想だにしなかった。
もはや彼女は、こうした狂言回しを担う運命なのかと割り切るしかない。
「はうぅ、そこまで直截的に言わなくても良いじゃないですかっ。私も困ってるんですよっ……?」
「このメールは間違いなくあの男性客でしょうね。天然ボケかつ間抜けな風師さんのお姿は、ナンパ師には引っかけやすい鴨だったのでしょう」
「む、むぅ……何だかひどい言われようです」
時花はしゅんと肩を落とした。
しかし自分がドジで隙だらけなのは本当だから、言い返せない。店長にすがったまま離れられず、上目遣いで店長の顔を覗き込んだ。
店長はメール・ボックスを閉じ、ひとまず返信は保留にしておく。
「男性客の本性を暴くことが出来ました。この点においては、ドジな風師さんのお手柄と言えますね」
「……褒めてませんよね、それ?」
ドジが手柄になる、なんてことがあるのだろうか。
第一、何の役に立ったと言うのか。
男性客の本性が何に影響するのだろう?
「風師さん、怪我の功名ですよ。あなたの掃除が遅れたことで男性客の目にとまり、このメールが書かれたのです。全ての事象は連鎖しています。おかげで真実を暴けました!」
「え? え?」
店長は時花を見下ろすと、茶目っ気たっぷりに片目をつぶった。
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