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 朝、目が覚めると牙が生えていた。というよりは下唇に鈍い痛みを感じたので目が覚めたのであるが、おそらく牙のせいで下唇には傷ができているに違いない。血の味が口いっぱいに広がる。  洗面所の鏡で確認してみたところ、下唇の怪我は大したことは無く、やはり上の犬歯が2センチ程伸びているようである。吸血鬼のように見える  大変困るのである。  普通の顔をしていると牙はチラリと口から覗き、爽やかな朝日を乱反射。  こんな状態で会社に行こうものなら「吸血鬼」とか「色白男爵」といういわれの無いあだ名がつけられいじめられるかもしれない。「おい吸血鬼、お前なんか蝙蝠に変身して投げられた石でも本能的に追いかけてろ」とか。  このままではちょっとまずいなあと思うものの牙の収容の仕方がわからないのである。うまく下の歯と下唇の間に収容しようとすると当然顎を突き出さねばならず、しゃくれてしまう。今にも「しゃくれ伯爵」や「二重苦」といったあだ名が聞こえてきそうである。それにしゃべろうとしても牙と下唇の制限により上手く「しゃべりゃれしぇん」のである。かといって普通にしていても下唇を常に突き刺していてストレスが半端ではないし、牙が完全に見えるように前へ出しても、気を抜けば下あごと牙で下唇を圧迫するし歯が乾く。  そもそも何のための牙なのか。本当に吸血鬼になってしまったのかとても気になる。先ほどから洗面所の磨りガラスから透ける朝日には何ら嫌悪感を抱かないが、吸血鬼は日の光に弱いのでは無いかと窓を開けると直射日光がジリジリと肌を焦がす。いや、でもこれは大したことは、ただ外気温が高いだけで夏だから痛いいたいいたいいたい。と窓を閉める。日光の当たっていた部分からは蒸気のような煙が上がり、焦げた匂いが鼻をつく。やけどの状態は酷くないと思ったのだが瞬く間に完治してしまったのでどれくらいの状況だったのかが全くわからないのである。  今日は爆破的に日差しがきつい。
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