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「葵の弁当、すごくうまくて」
「……うん」
本当にお弁当だけが目当てだったんだ。
それなのに、好きになって。バカだなぁ……私。
「葵の弁当は、九州の味がした」
「……え?」
私の母の実家は九州だ。今も九州特有の甘いお醤油を取り寄せて、料理を作っている。
その味付けを気に入ったってこと?
いや、違う。と私は思い直した。
健太郎は、半年前にこちらへ来たばかりだ。
「俺の母さんは、あっさりこっちの醤油に変えたから、九州の味が食べられるのは、葵の弁当だけで。その味は、俺の……」
そこまで聞いて、私はわかってしまった。
「思い出の味、ってこと?」
「……」
「もしかして、彼女が作ってくれたお弁当の味を思い出してた?」
健太郎はうつむいたまま、頷いた。
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