「好きなんだろ?」*琴羽side

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4月に入ったばかりのこの日に、私は初めて見る“私の住む場所”の前に、たくさんの荷物を持って立っていた。 森に囲まれた中にある、大きな平屋建てのお家。 古い木造で、庭は、決して手入れがされているとは言えないけれど、大型犬が喜んで走り回れそうなくらいの広さがある。 どんな人がいるんだろう……。 まだ入ってもいないこの家で暮らすことを、早くも後悔し始めていた。 『お前が実家を出て暮らすなんて無理だ』 父の声が蘇り、私は拳を握った。 自分で決めたんだから、もう後には引けない。 お父様の言う通りに過ごす毎日は、もう嫌だ。 そう自分を奮い立たせる。 「ひめかちゃん?」 それは私の名前ではないけど、私にかけられた声のような気がして振り返った。 背が高く、髪をきれいに茶色に染めた男性がそこに立っていた。 私よりは歳上だけど、とても若い。 誰だろう。この人。 かっこいい人だな……。 「あ……違います」 「じゃあ、琴羽ちゃん?」 「えっ? どうして私の名前を……?」 その男性はクスッと笑った。
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