第三章 老婆

2/8
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
 二人は駐車場から出ると、遺体女性の自宅へと向かった。大友がチャイムを鳴らすと、七十歳過ぎの老婆が出てきた。二人は身分証を提示した。  老婆は、ミーク化しないまま、遺体を連れて来たことに驚きを隠せないでいた。 「とりあえず、中へどうぞ」  老婆はリビングルームに二人を案内した。 「このたびは、とんだことで……」  大友と黒田は深々とお辞儀をし、ソファに座った。老婆も座りながら、力なく頭を下げた。 老婆は「去年、爺様に先立たれまして……」と、キッチンルームの床に置かれたアルミ製の箱を見たあと、「今年は、孫娘です……」と続けた。  孫娘について淡々と話をしていたが、目には涙がにじみ、手は小刻みに震えていた。いつの時代も大切な人を失った瞬間というものは、悲壮感に満ちている。だがその気持ちは時間が経つにつれ、消化され癒えていく。  この時代、葬式は行わず、弔いもしない。遺体は食料であるという割り切りが根付いている。よって癒されるスピードは格段に早いといえた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!