艷色のかんざし

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「色っぽい話? 何を聞かせてくれるんだい」 「新さんが私に聞かせてくださいな。そのお顔だもの。浮いた話がたくさん聞けそうだわ。一体何人泣かせてきたのかしら」 二人は言葉を交わしたのこそこれが初めてであるが、互いの存在はずっと前から認識していた。 そしていつか“手合わせ”願いたいものだと、お互いに思っていたのだ。 「否定はしねぇが、あんただって同じだろう。一体何人泣かせてきたんだい」 「やーねぇ。私はいっつも鳴く側よ」 「あんたが“なく”って言うと、違って聞こえてくるから不思議だね」 「どんなふうに聞こえたの?」 「そいつは言えねぇなぁ」 「まあ。言えないようなこと、考えたってことなのね」 二人は互いが惜しげもなく醸し出している妖艶な情調に興奮しながらも、決してそれを悟らせない。 駆け引きを楽しみながら、少しずつ刺激を強くしていくのが通の定石だ。 「その簪、ちょっと抜いて見せてくれないかい」 新之助が佳乃の髪に手を伸ばしてみる。 すると佳乃は肩を上げ頭を傾げて彼の手を避け、甘えるような上目遣いで艶かしく拒む。 「あらダメよ。抜いたりしたら、せっかく結った髪が崩れてしまうわ」 拒絶すら誘惑しているように見せなければならない。 「ただの棒じゃないってわけかい」 新之助が手を引っ込めたのを確認して、佳乃は体勢を戻す。 そのついでに、軽く簪を髪に押し込んでおく。 「棒だなんてずいぶんな言い方だわ。“ひとさしで女を上げる”のが簪よ。抜いてしまうと女が下がるじゃないさ。これを抜いていいのは、着物を脱いだ後なのよ」
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