序章

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序章

 昔々、あるところに気が強くて可愛らしい貴族の娘が居ました。  娘の母親は、オスタリア大陸の北側に位置する古い歴史を刻む国の皇女様でした。  彼女の父君であるその国の皇帝が身罷(みまか)った後、彼の君を謀殺した首謀者は国中を捜し、皇女様の行方を追いました。そこで、皇女様は大国である隣国アルディアへと、頼り無き若い娘の身で一人、命からがら逃げ延びたのです。  国主の一族の大半は命を落とし、残りの者は散り散りとなって離散した為、国の舵取りをする者を失ってしまったその国は次第に荒れて行きました。  皇女様は国の有り様を大変憂いました。とは言え、彼女は当時、まだ十五、六になったばかり。  その上、母君である皇妃殿下が亡くなられた後、成人の日を迎える十五の年を数える前に、斎宮のお務めを果たさんが為、塔の中で祈りを捧げる為に世俗から離れた、世間知らずのか弱き存在です。  皇女様は塔に籠り、俗世と離れ、国家の安寧を静かに祈る斎宮(神子)として、ただ一人、静かにお務めを果たしておいででした。  彼女の力一つでは、最早内乱状態と成り果てた祖国を、すぐにどうにかすることも出来なかったのでございます。     
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