父の命

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東京から飛行機で帰省したノゾミと一緒に父の最期を見送った。 オレにも妹にも何も言わずに息を引き取ったのは、父らしくも思えた。 「仕事は大丈夫だったのか?」 「うん。オーナーも心配するなと言ってくれたの」 ノゾミが勤めている美容室のオーナーは、静かに眠っている父よりも3歳年下だった。オレやノゾミにすれば、父親に見える年の差だ。上京して今の店で働き初めてから、ノゾミはオーナーのことをときどき話題に持ち出した。ニューヨークに最新の美容テクニックを視察したこと。彼が所有している軽井沢の別荘で、夏季休暇を過ごすということ。器用で頭の良い妹ではあるけれど、東京ですぐに才能を開花できるとは思えない。オレは、年を取り、社会の汚い部分を何度も見て来た。妹が単なる従業員ではないことは、薄々感づいていた。 ふと、ノゾミが差し出した300万円をどんな気持ちで稼いだのだろうと考えた。月に2万円、年間で24万円、つまり計算上は12年で300万円を貯めることができる。12年をわずか数年で駆け抜けるために妹が選んだ道。近道なのか遠回りなのかは、オレには答えられなかった。
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