ひっこし

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澄彦さんはその日の夕方のうちに、宗祐さんと御門森の数名と共に正武家を後にした。 北陸の五箇山へ鎮めにいくお役目だそうで、昼餉が終わった後、二人で話し込んでいたので私は座敷を退出して部屋で着替えた。 澄彦さんを見送り、私と玉彦は石段に座り、夕陽を眺めている。 座る前には石段をしっかりチェックしたので、もう華隠を付けられることはない。 「明日の午前に豹馬と須藤が来る。比和子も共にあるように。それと後藤の娘、頭が痛いが香本も必要か。あとは……」 玉彦は独り言のように呟く。 当主である澄彦さんが不在の今、彼にその決定権があり、かなりの重圧があるのではないかと心配したけれど、当主不在時の任に関しては幼い頃から押し付けられていたそうで、逆に澄彦さんがいない方が楽だと玉彦は笑う。 隣で考え込む玉彦をよそに、私はぼんやり気味だ。 怒涛の展開をみせた夏休みだった。 御倉神の登場から始まった一連の出来事は、誰かの意志のように感じる。 意志であり、意思ではない。 これがもしかして正武家に関わる神様たちの惚稀人を正武家に招き入れるための作戦だったなら、大層大仕掛けだと思う。 全てのことが正武家を栄させるために無理なくそうあるようになっている。 絶対に有り得ないと思っていた私の編入話もそうだ。 そこはもう何とか前みたく夏休み終わりギリギリで解決して、結局試験は受かったけど、やっぱり解決したから通山に帰ります~ってオチになるのだろうと私は思っていたのだ。 それが、どうしてこうなった。
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