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川と老人
古ぼけた小さな田舎の町の真ん中に、大きな川が流れていた。
古来より、この川の神の怒り買うと川は荒れ狂い、町を飲み込んできた。
川の神の怒りを鎮めるため、住民の中から籤引きという形を通して川の神に選ばれし若者を、川の神に捧げるという人身御供の風習があったとの言い伝えもある。
それから時代は進み、護岸工事のお陰か、かつてのように川が荒れ狂うことはなくなったが、その代わりに金網とコンクリートで囲まれてしまい、川縁まで降りて水と触れ合うことはできなくなってしまった。
町の中ほどに、東と西を繋ぐ一本の大きな橋が架かっているが、その橋の真ん中で、数日前から一人の老人が、川面に向かって釣り糸を垂れていた。
晴れた日ばかりでなく、雨の日も毎日。
明け方、気がつくといつの間にかそこに老人はいて、夕方にはいつの間にかいなくなっている。
老人は見窄らしい身なりで、不揃いのサンダルを履き、ボサボサの白髪頭に白い顎髭を伸ばしている。
持っている釣竿も古ぼけた竹の竿だ。
町の住人の誰もが老人に心当たりもなく、その放つ悪臭から、他所からこの町に流れ着いた浮浪者だと思われ、老人に近づくものもいなかった。
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