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――それはある日、突然起こった。
「あー……疲れたぁ……帰ったら、お風呂入って、制作頑張ろ」
ある一角の部分だけ明かりが点いている薄暗い日本画専攻教室の畳みの上。エプロンを付けた長い黒髪の女学生が、畳の上に置かれた制作途中の作品から身を起こし、正座をしたまま両手を広げて伸びをする。
三回生最後の大事な制作だ。もうすぐ後期の批評会を含めた合同制作展がある為、午前中から昼食もそこそこに長時間座ったまま作業をしていた。今は追い込みの最中で、緻密な描写を得意とする彼女の特性を活かした髪の一筋すら丁寧に描いた自画像を、今回のモチーフとしていた。
――何度も平場毛で色を塗り重ね、被写体を書き起こし、また刷毛で色を重ね、再び被写体を書き起こす。背景から浮き上がるように描かれた美月の絵。
青色が好きな美月の作品らしく、白緑、群緑、群青、水浅黄……その背景には様々な色が青を中心に刷毛で塗り重ねられている。その上に浮かぶ、背中を晒し、肩越しに振り向きながらこちらを見つめる素肌のままの自分は、見る者を真っ直ぐ見つめている。
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