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「ヤバイ……やっぱロッカーに忘れてきたか」
駅に着いた長谷川は、いつもならポケットに入っているはずのスマホがない事に気がついた。
休憩の時に触っていて上着のポケットに入れたと思っていたのだが、羽織る時に落としてしまったのかもしれない。
「あ~くそ…最悪」
苛立ちげに髪をグシャグシャと掻き回すと渋々踵を返す。
まだ店長は残っているだろうか。
とにかく急いで取りに戻るしかない。
溜め息を吐きながら来た道を足早に戻っていると、ふと通りの向こうに見覚えのある人物を見つけた。
「………斗羽」
俯き加減に歩いているので顔はハッキリとわからないが、何万回と目に焼きつけてきた好きな相手を見間違えるわけがない。
車が行き交う道路のむこう側を彼は誰かと歩いていた。
矢田とは別にいるもう一人の恋人の男、だろうか。
往来する車の隙間から見ていると、ようやく相手の顔が見えた。
その男は斗羽と長谷川の勤めるホームセンターに何度か来店している男だった。
確か晴れの日に、傘を買っていった変わった雰囲気を持つあの男。
斗羽の事を知っていて親しげにしていたあの男に間違いない。
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