不死の通信兵と次代の魔女

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 ルーシーは頬ではなく、唇にキスをしようとしていた。俺は口紅が付かなかった方の頬を指して横を向くと、ルーシーはそこにちょこんと唇を押しつけてきた。 「あなたの髭、刺さって痛い。唇なら痛くないのに」 「駄目だ。そういうもんなのさ」  納得いかぬ様子のルーシーの手を握り、運転手の男に声をかける。 『コガシノまでどのくらいかかる?』 『だいたい四時間くれぇかな。途中まで乗せてやるよ、どうせ仕入れにいくからな』  行きは娼婦を乗せ、帰りは食料を乗せる。合理的な密輸だ。店という名の小屋に娼婦たちが消えたのを見送り、俺たちは再び荷台に乗りこんだ。  南に近づくにつれて、珍しく空気が湿っていた。世界的な干ばつの中、大陸の西側だけはまとまった雨が降る。ルーシーと出会ったあの場所で降っていた雨は、ルーシーと歩き出した途端に止んだ。おそらく、最後の雨だろう。  扉のない荷台に揺られながら、広大な穀倉地帯の変わらぬ景色を眺める。もうすぐここも、枯れる。そうすればまた、数千、数万の餓死者が出るだろう。 「……ラッド、くる」  ルーシーの言葉と同時に荷台に伏せた。立て続けの発砲音が遮るもののない穀倉地帯に響く。  ガラスの割れる音が複数聞こえ、運転席にも無差別に撃たれたとわかったのはトラックが大きく蛇行し、収穫前のトウモロコシ畑に突っ込み始めたからだった。     
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